柏木麻里

鎌江一美さんの創作に応答して、柏木麻里さんが「いつも、いつでも」という詩の作品を寄せてくれました。好きな人を想う気持ちの強さと、同時に心の中に感じられる切なさが表現されています。ぜひ、ブックの誌面や、こちらの読み上げで味わってみてください。

いつも、いつでも

私の
手のなかで
今日
青い地球が種のようにふくらんで
明日
どこかで
その花が咲くらしい

花だから
それはよろこびなのだけれど
(おそ)れの種が
どうしても咲きたくて
咲いた

ひとびとに
目を(つむ)られている
惧れの種からしか
咲かない花を
私は
見たんだよ

花が
黎明をつきやぶって
咲くのを

わたしが
さわっているのは
幸せになりかた

ねえ
今日一緒にいることは
明日一緒にいなくて良いってことじゃないんだよ
わかるよね

あなたといる
青い空
あなたといる
そよぐ風
あなたと食べる
西瓜の味
あなたと一緒に車に乗っている
ひゃっほう!

切れ目なんてふざけるな
どんなに小さな終わりの侵入だって
わたしは許さないよ
みとめない

こわくて
叫ばないでいられないの
あなたが終わるって
聞いたことがある

愛することの外には
足場になる余白なんてないのに

わたしはね
終わることをやめたの
ほんとうは
終わらなくていいんだよ
終わらないと決めたらね

あなたといる
あなたといる
世界は
ただそれだけ

抱きしめることの終わりが来る前に
抱きしめれば
終わりはないってことが
わかるでしょ
ちょっとむずかしいかな

青い空の次にはすかさず
青い空を継いで
そよぐ風のすぐ向こうに
そよぐ風をつなげる
西瓜がおいしいねの次には
息もつかせずに
西瓜がおいしいをするの
あなたと一緒に車に乗ってひゃっほうの
ほう、が終わる前にもう
ひゃっほうだ

わかるかな
つまり、ここで丁寧に教えてあげているのはね
わたしは
愛するものを終わることを
拒否します

ほんとうは
みんな
そうしていいんだよ

もう
愛するものはなにも終わらないんだよ

ねえ
それでいいでしょ
神様

作品《いつも、いつでも》
詩、2020年