松本美枝子

ピンホールレンズを使って撮影された写真作品が4点あります。写真には、海が見える景色や色とりどりの花が咲く草原、洋服を着せたトルソーのある室内の風景などが収められています。松本美枝子さんは、「あなたが人に見せたいと思う風景」について4人の方から話を聞いて、その風景を想像し写真を撮りに行きました。全体に少しだけピントが外れたような、不思議な風合いの写真には、見知らぬ風景でありながら、どこか懐かしさのようなものも感じられます。

mieko matsumoto

サルトルによると、人が何かを想像するときに、心に思い浮かべるものとは、その像(いわゆる、よくいう「イメージ」)ではなく、《想像する対象そのもの》、ということらしい。つまり、もし今、あなたが頭の中で《私》を想像するとして、そこで思い浮かべるものは、単純に私の姿かたちなのではなく、《私そのもの》になる、ということだ。

だからなのだろうか、想像したものを、現実の像として結ぶのは、大抵むずかしい。例えば、写真撮影に限って言えば、得たいものにピントを合わせようとすればするほど、それが、すっと遠のいていくような感覚は、いつもある。

あなたにも、きっと、そういう経験はあるでしょうね。

目を凝らすではなく、口をきわめるでもなく、なにか別の方法はないだろうか。私たちは、それをいつもさがしている。

作品《いつか 私も 見たい もの》 
写真 4点一組、2020年